令和02年07月20日

「標準発育値」改め

「推奨発育値」発表

 このほど日本ホル協では25年ぶりにホルスタイン種雌牛の新しい発育値を発表した。従来の発育値は標準発育値と呼ばれ、1994(平成6)年に地方競馬全国協会の助成により家畜改良事業団が実施した「総合的遺伝能力評価のための基礎情報整備事業」において当協会が一部委託を受け、全国の農家でホルスタイン種の経産牛3245頭を測定したほか、家畜改良センター各牧場および都道府県の畜産試験場などから提供された経産牛と未経産牛のデータを使用し、ホルスタイン種雌牛の体格の現状把握および飼養管理上の客観的指標として利用されてきた。以来20年余りが経過し、その間、酪農経営者の高齢化や後継者不足などを理由に年々酪農家戸数および乳用牛の飼養頭数が減少し、さらに地震や台風等の自然災害による甚大な被害が続くなど、酪農を取り巻く情勢は年々厳しさを増している。乳用牛の改良面ではゲノミック選抜の実用化により泌乳能力の改良速度が加速している一方で、体のサイズの大型化が顕著に進んでいる。このような状況下、生乳生産量の回復には乳用牛の長命連産性および生涯乳量の向上が急務と考え、当協会は(公財)全国競馬・畜産振興会の助成により2017(平成29)年度から3年間、「乳用牛DNA情報による長命連産性向上事業」を実施し、ホルスタイン種雌牛の発育値、体のサイズ指数および肢蹄指数などを開発するための調査研究を行った。
 今回は新しい発育値の開発に使用したデータ、推奨発育値の定義および使い方について説明するとともに、最新のデータから見直した胸囲からの体重推定法について紹介したい。(6面に関連あり)
【使用したデータ】
 測定データは、6道県14戸の酪農家で飼養されている雌牛898頭を生時から初産分娩後の早い時期まで最低2回以上測尺したものと、国および都道県の19畜産試験研究機関からも2000年から2015年までに誕生した雌牛の測尺データの提供を受けて分析に使用した。表1には推奨発育値を推定するために使用したデータ数を示した。測定部位は体重、体高、尻長、腰角幅、胸囲の5部位。ただし、体重は体重計による実測値に限ったため、研究機関のデータのみを用いた。
【発育値の定義】
 初めに体型審査の線形形質を使用し、体のサイズと生産寿命の関係を生存時間解析で調査した。その結果、初産時における高さ、胸の幅、体の深さおよび坐骨幅はスコア5あるいは6を超えると淘汰の危険度が上昇を示し、一定以上の大型化は生産寿命の短縮を招くことが明らかになった。なお、「高さ」ではスコア5は142センチ、6は145センチに相当する。一方、測尺データを誕生年で集計したところ、2000年から2015年まで体重、体高、尻長および胸囲が大型化する有意な傾向が認められ、一般酪農家が現在飼養している雌牛は初産乳期中の体高が平均で148センチを超えていることも明らかになった。それゆえ、今回は現状の体サイズに合わせた標準的な発育値でなく、現状よりも体サイズは小さいが生産寿命の延長が期待できる「推奨発育値」という名称で発育値を開発した。
【標準発育値との比較】
 表2には今回作成した推奨発育値と前回(1995年)の標準発育値の比較を示した。推奨発育値は各月齢においてすべての体型部位で前回の標準発育値を上回った。60月齢の発育値は前回の標準発育値と比較し、体重、体高、尻長、腰角幅および胸囲においてそれぞれ80.1キロ、8.9センチ、4.1センチ、2.9センチおよび9.7センチ大きくなった。特に体重、体高および胸囲の増加が著しい一方で、腰角幅はそれらと比較して小さな増加に留まった。このことは、現代の乳牛が一般に肢長で前躯の高さと幅がある一方、後躯の幅は顕著に増加していないことを示唆している。
【推奨発育値の使い方】
 乳牛の発育は遺伝や飼養管理の違いによって多少の差異がある。推奨発育値は、現状のホルスタイン種雌牛の標準的な発育値を示すものではなく、生産寿命の延長が期待できる発育値を示している。図1には体高の推奨発育値を示した。発育曲線のグラフには中央に平均発育値の曲線を示し、上下2本の曲線(平均値±1標準偏差)は集団のおおよそ70%が該当する発育値の範囲を示している。実際の計測値(実測値)がこの上下2本の曲線の間にあれば、発育状況は生産寿命の延長が期待できる「良好」な発育と言える。現在飼養中の雌牛の体格はこの推奨発育値よりも大型化しているので、実測値が推奨発育値よりも上方の曲線の上側(範囲外)に偏る場合があり、これらの雌牛は飼養管理が難しく不本意な淘汰によって生産寿命の短縮を招く危険性があるので、次世代の更新牛生産には体サイズの大型化につながる種雄牛の交配を避けるべきだ。また、飼養管理面では体各部がバランス良く発育しているか、肉付きや健康状態などを観察し、過肥にならないよう留意してほしい。実測値が下方の曲線の下側(範囲外)にある場合、不適切な管理により良好な発育状況とは言えない場合も考えられるので、飼料給与の内容や健康状態などを検討・改善するよう心掛けよう。
 経産牛は妊娠、分娩、泌乳及び乾乳など各ステージの条件下で、特に体重や胸囲などは変化するので、これらの生理や健康状態、肉付きなどを観察して必要以上に過肥または痩せ過ぎ(削痩)にならないよう留意してほしい。なお、不本意な淘汰とは泌乳量などの低能力による理由でなく、機能的体型が欠如して飼養管理が難しくなり酪農家が淘汰せざるを得ないと判断する場合のことを指す。
 最後に推奨発育値の詳細については「ホルスタイン種雌牛の推奨発育値(令和2年3月発行)」を参照してもらいたい。この冊子は当協会のWebサイトからダウンロード可能である。

表1 発育値の計算に用いた測定データ件数
表2 発育値計算値の比較



表3 体高の推奨発育値


表4 ホルスタイン種雌牛の月齢別推奨発育値


図1 体高の推奨発育値



一般社団法人 日本ホルスタイン登録協会
The Holstein Cattle Association of Japan