平成30年09月20日

近交係数上限値の直しと最新技術を学ぶ

−平成30年度 地区別登録委員研修会−
   (一社)日本ホルスタイン登録協会(前田勉会長)では、都府県を6地区に分け、登録委員を対象にした1泊2日(関東は別項目)の研修会を行いました。この研修会は、日頃酪農現場の第一線で活躍している登録委員を対象として毎年夏期に開催しており、今年度は7月下旬から8月上旬にかけて、東北地区(宮城県)、中部・北陸地区(石川県)、近畿地区(和歌山県)、中国・四国地区(徳島県)、九州地区(沖縄県)の5地区で開催され、今年は事務研修に加えて、「近交係数の上限値の見直しと国内ゲノミック評価の動向」と題して講演会を開催しました。今回はその講演会の内容を紹介します。
登録は改良の基本
  当協会では、強度の近親交配の回避と、遺伝的不良形質(遺伝病)の発現を未然に防ぐために、血統登録を推進してきました。
 しかし、繁殖技術の発達、ゲノミック評価の導入により世代間隔が縮まり、近年の登録雌牛の近交係数は年々上昇しております。
上昇し続ける近交係数
  約50年間の日本及びアメリカの登録雌牛の近交係数の推移を図1にしました。1970年では日本、アメリカともに近交係数は1%未満でしたが、年々、近交係数は上昇し2017年生まれの日本の登録牛の近交係数の平均は6.35%(アメリカは7.23%)となっています。
 近交係数が上昇すると、乳量や決定得点の低下、空胎日数の増加などの近交退化が現れます(図A)。近交係数に近交退化量を乗じた数字が農家の損失と言っても過言ではありません。
 また、BLAD、CVMなどの遺伝的不良形質がありますが、おじ・めい交配などの非常に近い近親での交配は未知の悪性劣性遺伝子がホモになる確率が高くなり、早期胚死滅や子牛が死亡することがあります。子牛が生産されなければ酪農家には大きな損害となります。
退化量を上回る改良を
 近交係数の上昇による近交退化や遺伝的不良形質の発現が酪農業に影響があることから、当協会では近交係数の上限値の目安を6.25%にして、それ以上になるような交配を避けることを推奨してきましたが、6.25%の上限値では、遺伝的に優秀な種雄牛を選定することが困難になってきました。
 このことを踏まえ、近交係数の上昇にともなう近交退化量を調査したところ、現状の6.25%を数%超えたとしても、生産性を大きく低下させるほどの強い影響がなく、むしろ近交退化量を上回る遺伝的能力の高い種雄牛を交配することで、改良を維持できることがわかりました(図B)。
 改良をしていく上で近交係数の上昇は避けることはできませんが、非常に近い近親での交配や、近交係数を急激に上昇させるような交配は近交退化量が増大することから、緩やかに近交係数を上昇させることが重要になります。
上限値の見直しを検討
  そこで、新たな近交係数の上限値を設定するために、昨年の初夏、北海道内で開催した研修会等で意見交換を実施したところ、近交係数の上限値は今後も必要であり、急激な上昇により繁殖性の低下や遺伝的不良形質の発現に不安があるが、段階を追って上げていく方が良いという意見がありました。反面、海外と比較して緩やかな上昇は授精師の努力によるものであり、上限値を変更するのは努力が無駄になる等の意見もありました。
6.25%から7.20%に変更
  調査結果や意見交換などを考慮して、北海道では昨年10月から先行して現行の近交係数の上限値を約1%上げて7.20%として、近交回避情報の設定値やweb上の近交係数情報に利用しています。
 都府県については、本年10月から同じく上限値を7.20%に変更し、家畜改良データバンクの近交回避情報の変更をいたします。
SNP検査は年々増加
 SNP検査の検査状況は2013年からSNP検査を開始して、2018年3月末時点で約6万のデータが蓄積されています(図C)。SNP検査は、早い月齢で実施して遺伝評価値を得ることで、子牛の時点で選抜することができます。検査開始当時は月齢に関係なくSNP検査をしていましたが、最近では検査月齢が早まり生後1〜2ヶ月齢でSNP検査する牛が多くなってきました。
子牛の時期に選抜
 未経産の従来の評価値PAにDGV(直接ゲノム価)を追加することで、未経産のPAの信頼度は50%未満であったのが、DGVが加わりゲノミック評価値GPIとなり、信頼度が50%を超えます。評価値の信頼度が低い未経産についてはDGVの寄与が大きいことがわかります。反対に、経産牛従来の評価値であるEBVはDGVが加わるとゲノミック評価値GEBVになりますが評価値の信頼度はわずかに増える程度です(図D)。
 また、GPIが高い牛は、分娩後にGEBVを得ても高い傾向があり、SNP検査は子牛時点の選抜手段として有効の評価技術です。
血縁の矛盾が分かる
 SNP検査で得られたデータは能力や体型のデータだけではなく、血縁も確認することができます。当協会ではSNP検査した牛のデータが、血統登録上の血縁と矛盾が無いかを確認しております。
 しかしながら、数%の割合で登録とSNPデータの血縁に違いがあり、その牛を血縁疑義牛として、正しい血統であるかを確認するために、再度毛根を抜きなおして親子判定をしてから血統更正をしております。
 当協会の受付分、ALIC事業の受付分を見てみると、どちらにおいても都府県の血縁疑義率が高く推移しています(図E)。正確な登録の報告をするために、血縁疑義率を少なくするような対策をしていただきたいと思います。
疑義の解消は早めに
 親子判定では父母子間のDNAの照合により確認するマイクロサテライト法が一般的ですが、SNPでの親子判定では親子間でのSNPデータの照合と、血縁行列法での血縁を確認する方法の2つがあり、当協会では血縁行列法で親子関係を確認しています。
 血縁行列法は、血縁情報由来の数値とSNP情報由来の数値を見て判断する方法で、血縁とSNP情報由来の数値がほぼ同じ値になれば血統が正しいと証明され、血縁とSNP由来の情報が大きく異なっていれば血統が違うと判断する方法です。
 血縁疑義が解消されないとせっかくのSNPデータが採用されませんので、血縁疑義が判明したら早期に解決できるよう対応をお願いします。










図1〜図5のPDF

平成30年09月20日

検定成績優秀牛群

−都府県、平成30年8月証明分F偏差値−

都府県、平成30年8月証明分F偏差値


一般社団法人 日本ホルスタイン登録協会
The Holstein Cattle Association of Japan